タイマッサージとは
タイマッサージ(ヌアッド・タイ)は、タイで受け継がれてきた伝統的な手技療法・健康文化の一つです。手や肘、膝、足などを用いた圧迫やストレッチを組み合わせることを特徴とし、タイ伝統医学の考え方と深く関わっています。
2019年には「Nuad Thai, traditional Thai massage」として、ユネスコの「人類の無形文化遺産の代表一覧表」に登録されました。このページでは、タイマッサージの歴史、思想、タイ伝統医学における考え方、技法などについて紹介します。

タイ人にとってのタイマッサージ
タイの町を歩いていると、タイマッサージの看板をよく目にします。場所によっては、一つの通りに何軒もの看板を見かけることもあります。それほど、タイではマッサージが大衆に受け入れられています。最近の調査では、体調がすぐれない時、約5割の人が病院ではなくマッサージを受けに行くといわれています。それほど多くの人にマッサージが受け入れられている理由の一つは、なんといってもその気持ちよさにあるでしょう。仰向けになり、足のつま先からゆっくりとしたリズムでほぐされていくと、気がつけば夢見心地になっていることがあります。これこそ究極のリラクゼーションのひとときでしょう。

※図表は、国際タイマッサージ協会会長・大槻一博の著書に掲載された内容をもとに紹介しています。
タイマッサージの効果に関する記述
※以下は、国際タイマッサージ協会会長・大槻一博の著書である、日本タイマッサージ協会出版『タイマッサージ入門』およびBABジャパン出版『タイマッサージ』に記載された内容をもとに紹介しています。医療上の効果を保証するものではなく、疾病の診断・治療を目的とした情報ではありません。
タイマッサージの治療効果も現代医学的に証明されつつあります。日本の厚生労働省にあたるタイの保健省では、タイマッサージの治療効果に注目をして、病院内でタイマッサージを治療に応用する試みが行われています。そして、その結果、頭痛、腰痛、肩こり、生理痛、生理不順、喘息、高血圧、冷え症、便秘、アレルギーなど、さまざまな症状に治療効果があることがわかってきました。これだけの症状に効果があれば、たとえ自覚症状がなくても、多くの人がマッサージを受けに行く理由が理解できます。また、西洋医学では扱えない、予防医学的効果もタイマッサージの特徴といえるでしょう。定期的にマッサージを受けていれば、症状が悪化して大病になる前に、病気を治してしまうことも可能なのです。

タイマッサージの歴史
タイマッサージには、約2千5百年の歴史があります。その創始者は、今から約2千5百年前、釈尊と同じ時代に生きたインドのシワカ・コマラパ師とされています。彼は仏陀の主治医であり、当時、サンガ(仏教僧の集団)の筆頭医師として活躍していました。その当時、仏教僧たちを救っていた仏教医学は、仏教の伝来と共にタイに伝わり、中国医学を吸収し、タイ伝統医学として確立されました。そして、今度はワットと呼ばれる寺院で、民衆を救っていくのです。タイにおけるワットの役割は、仏教の教えを説く場所だけではなく、集会所や学校、そして病院の役割を果たすこともありました。そのワットで、タイマッサージは奉仕活動の一環として、体の悪い人たちに無償で施されたのです。
現代におけるタイマッサージの位置づけ
ユネスコは、ヌアッド・タイ(Nuad Thai)をタイの伝統的なヘルスケアに関わる技術・知識・文化の一つとして紹介しています。地域社会の中で受け継がれてきた知識や経験は、世代を超えて継承されながら体系化され、2019年には「Nuad Thai, traditional Thai massage」としてユネスコの「人類の無形文化遺産の代表一覧表」に登録されました。
UNESCO「Nuad Thai, traditional Thai massage」公式ページ

仏教の教え
ワットでは、タイマッサージを施すために必要な、仏教の教えも説かれました。それは、仏教でいう愛の概念「慈・悲・喜・捨」の心です「慈」とは、すべての生命あるものに対して友情の心を持つことをイメージし、自分の心を整え、相手の気持ちを中心に考える習慣をつけることです。「悲」とは、人の苦しみを抜き去ることを目的として行動し、痛みに苦しんでいる人がいたら、その痛みを取り去ってあげたいと思う気持ちのことです。「喜」とは、他人の痛みや苦しみがなくなったことに対して、「本当によかったなあ」と素直に喜べる気持ちをいいます。その気持ちを広げていくと、全ての生き物の幸せを喜べる気持ちになるのです。「捨」とは、自分勝手な判断を捨てて、あるがままの姿を観ることを意味します。つまり、捨の心は、すべての生命を平等な存在としてとらえ、それらの生命が幸せになりますように、と願う気持ちをいうのです。このような仏教の教えとタイマッサージは一体化して、タイ全土に広がっていったのです。

タイ伝統医学における「タート」と「セン」
※以下は、タイ伝統医学における伝統的な身体観・理論について紹介するものです。現代医学における解剖学・生理学上の概念とは異なる考え方を含みます。
体は土、水、風、火の4つの構成要素(タート)から成ると考えています。そして、その4つの要素のバランスが崩れるとき病気になると信じられています。
「土」(タート・ディン)
髪、毛、爪、歯、皮膚、肉、筋、骨、骨膜、心臓、腎臓、脾臓、肝臓、筋膜、肺、小腸、大腸、新しい食べ物、古い食べ物、脳・脊髄などの土に帰るもの全てを構成している要素
「水」(タート・ナーム)
胆汁、涙、痰、脂肪、膿、唾液、血、鼻水、汗、リンパ、尿、関節液などの水分の全てを構成している要素
「風」(タート・ロム)
下から上へ通る風、上から下へ通る風、腸の中の風、胃の中の風、血液の動き、呼吸など体の中の動きの全てを構成している要素
「火」(タート・ファイ)
体温、高熱、老化の火、消化の火など熱の全てを構成している要素
この内、特に風(ロム)のエネルギー要素に働きかけ、体の動きを良くし、病気を治していくことがタイマッサージの基本理論なのです。大寝釈迦仏で有名なバンコクのワットポーという寺院には、今でもタイ伝統医学の学校があり、境内にはマッサージを受けられる所もあります。また「セン」と呼ばれる鍼灸医学の経絡に似た、エネルギーラインが彫られた石版を、壁一面に掛けて保存している場所もあり、この「セン」をマッサージをすることも、大きな特徴といえます。代表的なセンは10本あり、その中を流れるエネルギーをプラーナと呼びます。

タイマッサージの主な手技と特徴
※以下は、タイマッサージで伝統的に用いられてきた手技や考え方について紹介するものです。記載内容は医療行為や疾病の診断・治療を目的とするものではありません。
タイマッサージは、頭のてっぺんから足のつま先までの、体のあらゆる場所を治療の対象としています。そしてその治療は、指圧・マッサージ、ストレッチ、矯正の三つの部門に分けられます。指圧・マッサージで凝った筋肉をよくほぐし、ストレッチでそのゆるんだ筋肉を十分にのばし、最後に矯正で体の歪みを整えるという、現代医学に照らし合わせてみても、理想的な治療体系を持っています。しかもタイマッサージの治療対象は、体だけにとどまらず、心や精神をも治療の対象としています。マッサージを受けている時、脳内はアルファー波で満たされ、半覚半眠の状態にあり、非常にリラックスした気分を味わえます。この精神を安定させ、心をリラックスさせる鎮静作用も大きな特徴です。

タイマッサージの目的と仏教思想
※以下は、タイマッサージに受け継がれてきた伝統的な思想や実践について紹介するものです。呼吸や心身の状態に関する記述には、伝統的な考え方や著者の見解が含まれます。
タイマッサージの最大の特徴は、マッサージをする側も、される側も「無我の境地」に近づくことです。マッサージを始める前に、心の準備として、「オンナモ」というマントラを唱え、これから良いマッサージができるようにお祈りをし、ファーザードクターのシワカ・コマラパ師に感謝の気持ちをあらわします。そして、マッサージ中は、自分の呼吸と相手の呼吸とに注意を払い、相手の体を押す時は、ゆっくりと押していきます。そしてストレッチをする時も、呼吸に注意を払い、吐く息に合わせて、ゆっくりと筋肉を伸ばしていきます。この深く長い、吐く息が中心の呼吸は「アナーパーナ・サティ」と呼ばれ、この呼吸法を使い動作を繰り返し行うことによって、副交感神経が優位になり、マッサージをする側もされる側も「深い静寂の状態」に近づくことができます。これこそが、仏教の影響を受けたタイマッサージの、最終的な目標なのです。
参考・出典
本ページの内容は、国際タイマッサージ協会会長・大槻一博の著書である、以下の資料を参考・引用して構成しています。
・日本タイマッサージ協会出版『タイマッサージ入門』
・BABジャパン出版『タイマッサージ』
※本ページでは、タイマッサージの歴史、伝統医学上の考え方、文化的背景などを紹介しています。記載内容は医療行為や疾病の診断・治療を目的とするものではありません。
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