タイ伝統医学も他の伝統医学と似て超自然的な原因によって病が起こると信じられています。
ここでは、その他の病気の原因と考えられていることを紹介します。

四大素(タート・ソムットターン)

地、水、風、火の4つの要素のバランスが崩れたことが原因となって病気になる。

地(土)(タート・ディン)
髪、毛、爪、歯、皮膚、筋肉、靱帯・腱、骨、骨髄、心臓、腎臓、脾臓、肝臓、筋膜、肺、小腸、大腸、新しい食べ物、古い食べ物、脳・脊髄
水(タート・ナーム)
胆汁、涙、痰、脂肪、膿、唾液、血、鼻水、汗、リンパ、尿、関節液
風(タート・ロム)
下から上へ通る風(ゲップ)、上から下へ通る風(おなら)、胃の中の動き、腸の中の動き、血液の流れ、呼吸の動き
火(タート・ファイ)
体温の火、感情の火、老化の火、消化の火以上タート・ディン(地)20種類、タート・ナーム(水)12種類、タート・ロム(風)6種類、タート・ファイ(火)4種類が病気が発生する場所であり、ここに異常が起こると病気になると考えられている。
以上タート・ディン(地)20種類、タート・ナーム(水)12種類、タート・ロム(風)6種類、タート・ファイ(火)4種類が病気が発生する場所であり、ここに異常が起こると病気になると考えられている。

時節(ウトゥ・ソムットターン)

季節、気候が病気の原因となる。

  1. キムハルドゥー(4・5・6・7月):夏は火による病になりやすい
  2. ワッサンルドゥー(8・9・10・11月):雨季は風による病になりやすい
  3. ヘーマンルドゥー(12・1・2・3月):冬は水による病になりやすい

年代による影響(アーユ・ソムットターン)

24時間の太陽と月の動き、また宇宙の星によって影響を受け、病の原因となる。

  1. パトムワイ(幼年期):誕生から16歳までで水の病気になりやすい
  2. マッチマワイ(壮年期):16歳から32歳までで火の病気になりやすい
  3. パッチムワイ(老年期):33歳から寿命までで風の病気になりやすい

住んでいる場所(プラテート・ソムットターン)

住んでいる土地の風土により病気になる。

  1. 高い所(山岳民族)に生まれた人:山や丘・崖などがあり、火の病になりやすい
  2. 砂混じりの土地に生まれた人:砂混じりで雨がたまりにくく、水の病になりやすい
  3. 泥土で雨の多い所に生まれた人:雨が多く湿地帯があるため、風の病になりやすい
  4. 泥土で塩分の多い所に生まれた人:海に近く海辺の湿地帯では、地の病になりやすい

時間と宇宙(ガーン・ソムットターン)

一日の時間帯によって起こる病気が異なる。

  1. 6~10時と18~22時は水の病気になりやすい(鼻水、下痢など)
  2. 10~14時と22~2時は火の病気になりやすい(発熱、腹痛など)
  3. 14~18時と2~6時は風の病気になりやすい(倦怠感、疲労など)

生活習慣が原因となって起こる

8項目あり、以下のような日々の生活習慣がバランスの崩れを起こし、病気になる。

  1. 過剰な大食または小食。食べつけないもの、腐ったもの、「タート」に合わないもの、あるいは病状に合わないものを食べる、また時間外に食べる。
  2. 座る、立つ、歩く、寝るのバランスが悪く、体の骨格が歪み、衰える。
  3. 暑すぎたり寒すぎたりする場所、または空気の悪いところにいる。
  4. 食事、睡眠、水分を摂らない。
  5. 排泄を我慢する。
  6. 体力以上の労働などで、体を酷使しすぎる。
  7. 深く嘆き悲しむ。「捨」の精神の欠落。
  8. 怒りすぎて精神が不安定になる。

タイ伝統医の診察方法

モー(医師)は病気の治療における専門家であり、以下に示す基本的な項目を知らなければならない。

  1. 病気の発生個所を知る。
  2. 病気の名称を知る。
  3. 病気を治癒する薬を知る。
  4. どのような薬でどの種類の病気を治癒するべきかを知る。
  5. 次にその人の履歴を聞く。
    ・名前:記録用
    ・住んでいる所:患者が住んでいる土地がどんなどんな所か。
    ・民族:習俗や行動を知るため
    ・生まれた所:プラテートソムットターン
    ・年齢:アーユソムットターン用
    ・どんな物を食べたか(いっしょに食べた人達が食べたものについても尋ねる)
    ・家族について(父、母、子、嫁、旦那についても尋ねる):遺伝する病気があるか検討するため。
    ・行動について(アヘンを吸う、飲酒やその他の行為):原因を探るため。
    ・以前に患った病どんな病気をして、どんな様子だったか。
  6. 次にその人の病歴を聞く。
    ・いつから症状があったか(発症した日と時間を尋ねる)。
    ・なにがきっかけで症状がでたか(症状がでる前の様子について尋ねる)。
    ・最初のうち、どのような様子だったか。
    ・その後、どのような症状になったか。
    ・どのように治療してきたか。
    ・そして、どのように変化したか。
    ・1日を通しての症状がどんな様子か(1日の病気の様子の変化を時間帯で知る)。
    ・診察している現在の症状を医師が目で確認し、それをどう理解しているか。
  7. 次にその人の体を診察する。
    (1)どんな体型か(2)体力はどうか(3)精神状態はどうか(4)各感覚はどうか(5)脈はどうか(6)呼吸はどうか(7)心臓を診る(8)肺を診る(9)舌を診る(10)目を診る(11)皮膚を診る(12)具合の悪いところを診る(傷など)
  8. そして、病状を診察する。
    (1)体温(2)汗(3)便(質問、検査) (4)尿(質問、検査) (5)食事患者が食べたもの(6)声(7)睡眠(8)体中の感じ(9)口の中と喉の感じ(10)体外の感じ以上の事項について、全部の患者に全部の事項を確認しなければならない。これを満たしたら、他にこれらがどのような様子であるか尋ねるべきである。そして、これが引き起こされる要因を探り、診察した者の見解を書き加える。
  9. 診察後、適した見解がでたら以下の点を検討する。
    ・患者の病症から、どんな種類の病気で何という病気か。
    ・その病気はなにが原因で発生したのか。
    ・その病気を治療するには、どのような方法で治療するのが適当か。
    ・その病気を治療する薬にはどのような効用があるか。

センについて

名称の由来

タイ伝統医学も他の伝統医学と同様、解剖学、生理学、病理学などがなかった時代に発達したため、現代医学から見て理解しにくい部分が多くあります。例えば、中国で漢方医学が発達した時には、今のような解剖学がなく膵臓や神経という記述がありませんでした。そのため、膵臓に関するツボがないのです。また神経の働きを補うために、経絡と経穴(ツボ)という概念が発達しました。
そして、気・血・水の3つの概念で体を考え、気というエネルギーが体中の働きをコントロールし、その滞りが病気の原因になると考えたのです。一方タイでは、センとジュをいう概念で神経系を補いました。センが経絡に相当し、ジュが経穴に
相当します。このタイの伝統医学は、インド医学の影響を多く受けています。
インドでは、気に当たるエネルギーをプラーナといい、経絡の当たる流れをナーディーといい、経穴に当たるものをマルマといいます。そして、ナーディーの数について、7万2千、35万、千など諸説ありますが、現在では7万2千説が優位です。次にその内の10本を紹介します。これらの名称をみると、センがナーディーの名称をもとにしてつくられたことが良く理解できます。

  1. スシュムナー:臍の奥から肛門、そして頭頂まで
  2. イダ:臍の脇から左鼻孔まで
  3. ピンガラ:臍の脇から右鼻孔まで
  4. ガーンダーリ:臍の脇から左目まで
  5. ハスティジフバ:臍の脇から右目まで
  6. ヤシャスヴィニ:臍の脇から左耳まで
  7. プーシャ:臍の脇から右耳まで
  8. アランブサー:臍の奥から口まで
  9. クフ:臍の奥から尿道まで
  10. シャンキーニー:臍の奥から肛門まで

センの走行

センは、現代医学の解剖学上は存在しないし、体を開いてみても見ることはできません。胎児が母親の胎内にいる時、胎盤を通して酸素や栄養素が母親から胎児に送られ、胎児が出した二酸化炭素や老廃物はまた同じルートを通って母親の胎内に吸収されます。そのルートがセンの考え方の始まりといわれています。そのためセンは、臍周辺から各感覚器官、泌尿器官、排泄器官、生殖器官、そして手足や体の中心を通っているわけです。そのルートは体の表面を流れているわけではなく、体の奥を通っていると考えられています。ここでは、代表的な10本のセンの走行を紹介します。

セン(イタ/ピンガラ)

1.イタ(体の左側)
臍部の2横指左から始まり、膀胱、鼡径部から大腿部内側を通り、左膝をまわり、膝の外側から大腿部後側を上がり、殿部、背骨の左側を上昇し、首、頭部を経て左鼻孔まで続く。(このセンの一部は、膀胱経に相当する)

2.ピンガラ(体の右側)
臍部の2横指右から始まり、膀胱、鼡径部から大腿部内側を通り、右膝をまわり、膝の外側から大腿部後側を上がり、殿部、背骨の右側を上昇し、首、頭部を経て右鼻孔まで続く。(このセンの一部も、膀胱経に相当する)

3.スマナ(体の中央)
臍部(臍の3横指上、太陽神経叢)から始まり、体の中心を上昇し、喉の奥から首を通り、舌の付け根で終わる。(このセンは、任脈、督脈の一部に相当する)

4.ガラタリ(体の中心から四肢へ)
臍部(臍の2横指上)から始まり、二つのセンは下降し、鼡径部を通り、大腿部、下腿部の前側を下り、足首までいき、そこから5本に分かれて、足の指先で終わる。(このセンの一部は、胃経、膀胱経に相当する)もう二つのセンは、臍から上昇し、腹部、胸部を経て、腋窩を通り、腕の
内側のラインを下降し、手関節で5本に分かれて、手の指先で終わる。(このセンの一部は、心包経、三焦経に相当する)

5.サハサランシィ(体の左側)
臍部(臍の3横指左)から始まり、鼡径部を通り、左大腿部、下腿部の前内側を下降し、足首をまわって、大腿部、下腿部の外側を上昇し、腹部、胸部、喉、顎を通り、左目で終わる。(このセンの一部は、脾経、胃経に相当する)

6.タワリィー(体の右側)
臍部(臍の3横指右)から始まり、鼡径部を通り、右大腿部、下腿部の前内側を下降し、足首をまわって、大腿部、下腿部の外側を上昇し、腹部、胸部、喉、顎を通り、右目で終わる。(このセンの一部も、脾経、胃経に相当する)

7.チャンタプサン(体の左側)※ラウサンともいう。
臍部(臍の4横指左)から始まり、腹部、胸部、喉を通って、顔から左耳で終わる。(このセンの一部は、胃経、膀胱経に相当する)

8.ルチャン(体の右側)※ウランカともいう。
臍部(臍の4横指右)から始まり、腹部、胸部、喉を通って、顔から右耳で終わる。(このセンの一部も、胃経、膀胱経に相当する)

9.ナンタカワット(体の中心)※スクマンともいう。
臍部(臍の1横指下、2横指という説もある)から始まり、骨盤のわずか左側を肛門まで伸びる。(このセンは、任脈、督脈の一部に相当する)
セン(スクマン/シキニー)

10.シキニー(体の中心)※キチャナともいう。
臍部(臍の2横指下)から始まり、骨盤のわずかに右側を、子宮、生殖器まで伸びる。(このセンも、任脈、督脈の一部に相当する)
※これらの10本センの走行をもとに、新たに足や手のラインが決められ、手には内側と外側に1本ずつ、足には内側と外側に3本ずつのラインがあります。


(以上日本タイマッサージ協会出版「タイマッサージ入門」、BAB出版「タイマッサージバイブル」より抜粋)