タイマッサージとは?
タイ人にとってのタイマッサージ
タイの町を歩いていると、タイマッサージの看板をよく目にします。場所によっては、一つの通りに何軒もの看板を見かけることもあります。それほど、タイではマッサージが大衆に受け入れられています。最近の調査では、体調がすぐれない時、約5割の人が病院ではなくマッサージを受けに行くといわれています。それほどマッサージが受けられている理由の一つは、なんといってもその気持ち良さにあるでしょう。仰向けになり、足のつま先からゆっくりとしたリズムで、ほぐされていくと、気がついたら夢見心地になっていることがよくあります。これこそ究極のリラクゼーションのひとときでしょう。
タイマッサージの治療効果
タイマッサージの治療効果も現代医学的に証明されつつあります。日本の厚生労働省にあたるタイの保健省では、タイマッサージの治療効果に注目をして、病院内でタイマッサージを治療に応用する試みが行われています。そして、その結果、頭痛、腰痛、肩こり、生理痛、生理不順、喘息、高血圧、冷え症、便秘、アレルギーなど種類の症状に治療効果があることがわかってきました。これだけの症状に効果があれば、たとえ自覚症状がなくても、多くの人がマッサージを受けに行く理由が理解できます。また、西洋医学では扱えない、予防医学的効果もタイマッサージの特徴といえるでしょう。定期的にマッサージを受けていれば、症状が悪化して大病になる前に、病気を治してしまうことも可能なのです。
タイマッサージの歴史
タイマッサージには、約2千5百年の歴史があります。その創始者は、今から約2千5百年前の時代を、釈尊と共に生きていたインドのシワカ・コマラパ師とされています。彼は仏陀の主治医であり、当時、サンガ(仏教僧の集団)の筆頭医師として活躍していました。その当時、仏教僧たちを救っていた仏教医学は、仏教の伝来と共にタイに伝わり、中国医学を吸収し、タイ伝統医学として確立されました。そして、今度はワットと呼ばれる寺院で、民衆を救っていくのです。タイでのワットの役割は、仏教の教えを説く所だけではなく、ある時は集会所になり、またある時は学校になり、そして病院の役割を果たすこともありました。そのワットで、タイマッサージは奉仕活動の一環として、体の悪い人たちに無償で施されたのです。
仏教の教え
ワットでは、タイマッサージを施すために必要な、仏教の教えも説かれました。それは、仏教でいう愛の概念「慈・悲・喜・捨」の心です。「慈」とはすべての生命あるものに対して、友情の心をつくろうとイメージをして、自分の心を変えていき、相手の気持ちを中心に考える習慣をつけることです。「悲」とは、人の苦しみを抜き去ることを目的として行動し、痛みに苦しんでいる人がいたら、その痛みを取り去ってあげたいと思う気持ちのことです。「喜」とは、他人の痛みや苦しみがなくなったことに対して、「本当によかったなあ」と素直に喜べる気持ちをいいます。その気持ちを広げていくと、全ての生き物の幸せを喜べる気持ちになるのです。「捨」とは、自分勝手な判断を捨てて、あるがままの姿を観ることを意味します。つまり、捨の心は、すべての生命を平等な存在としてとらえ、それらの生命が、幸せになりますようにと思う気持ちをいうのです。このような仏教の教えとタイマッサージは一体化して、タイ全土に広がっていったのです。
タートとセン
タイ伝統医学では、体は土、水、風、火の4つ構成要素(タート)から成るとを考えています。そして、その4つの要素のバランスが崩れるとき病気になると信じられています。
「土」(タート・ディン)
髪、毛、爪、歯、皮膚、肉、筋、骨、骨膜、心臓、腎臓、脾臓、肝臓、筋膜、肺、小腸、大腸、新しい食べ物、古い食べ物、脳・脊髄などの土に帰るもの全てを構成している要素
「水」(タート・ナーム)
胆汁、涙、痰、脂肪、膿、唾液、血、鼻水、汗、リンパ、尿、関節液などの水分の全てを構成している要素
「風」(タート・ロム)
下から上へ通る風、上から下へ通る風、腸の中の風、胃の中の風、血液の動き、呼吸など体の中の動きの全てを構成している要素
「火」(タート・ファイ)
体温、高熱、老化の火、消化の火など熱の全てを構成している要素
この内、特に風(ロム)のエネルギー要素に働きかけ、体の動きを良くし、病気を治していくことがタイマッサージの基本理論なのです。大寝釈迦仏で有名なバンコクのワットポーという寺院には、今でもタイ伝統医学の学校があり、境内にはマッサージを受けられる所もあります。また「セン」と呼ばれる鍼灸医学の経絡に似た、エネルギーラインが彫られた石版を、壁一面に掛けて保存している場所もあり、この「セン」をマッサージをすることも、大きな特徴といえます。代表的なセンは10本あり、その中を流れるエネルギーをプラーナと呼びます。
タイマッサージのテクニック
タイマッサージは、頭のてっぺんから足のつま先までの、体のあらゆる場所を治療の対象としています。そしてその治療は、指圧・マッサージとストレッチ、そして矯正の三つの部門に分けられます。指圧・マッサージで凝った筋肉をよくほぐし、ストレッチでそのゆるんだ筋肉を十分にのばし、最後に矯正で体の歪みを整えるという、現代医学に照らし合わせてみても、理想的な治療体系を持っています。しかもタイマッサージの治療対象は、体だけにとどまらず、心や精神をも治療の対象としています。マッサージを受けている時、脳内はアルファー波で満たされ、半覚半眠の状態にあり、非常にリラックスした気分を味わえます。この精神を安定させ、心をリラックスさせる鎮静作用も大きな特徴です。
タイマッサージの目的
タイマッサージの最大の特徴は、マッサージをする側も、される側も「無我の境地」に近づくことです。マッサージを始める前に、心の準備として、「オンナモ」というマントラを唱え、これから良いマッサージができるようにお祈りをし、ファーザードクターのシワカ・コマラパ師に感謝の気持ちをあらわします。そして、マッサージ中は、自分の呼吸と相手の呼吸とに注意を払い、相手の体を押す時は、ゆっくりと押していきます。そしてストレッチをする時も、呼吸に注意を払い、吐く息に合わせて、ゆっくりと筋肉を伸していきます。この深く長い、吐く息が中心の呼吸は「アナーパーナ・サティ」と呼ばれ、この呼吸法を使い動作を繰り返し行うことによって、副交感神経が優位になり、マッサージをする側もされる側も「深い静寂の状態」に近くことができます。これこそが、仏教の影響を受けたタイマッサージの、最終的な目標なのです。
(以上日本タイマッサージ協会出版「タイマッサージ入門」、BAB出版「タイマッサージ」より抜粋)