タイマッサージを理解するための 整体学

タイマッサージの治療効果を理解するためには、整体学の知識が必要です。残念ながらタイの伝統医学には、この整体学の理論が欠けています。どの国の伝統医学もそうですが、古い時代の医学は、実践的な解決法と経験的な知識の蓄積が優先され、解剖学や生理学、病理学などの現代医学による治療効果の解明に乏しいのが現状です。しかし、最近になりタイの保健省はタイマッサージに、頭痛、腰痛、肩凝り、生理痛、生理不順、喘息、高血圧、冷え症、便秘、アレルギーなど数十種類の症状に治療効果があることを現代医学の観点から解明しています。また、西洋医学では扱えない、予防医学的効果と精神的リラックス効果があることもタイマッサージの特徴といえます。ここでは、タイマッサージを受けるとなぜ体調が良くなるのかを整体学の凝りと歪みの理論から解説します。

凝りとは

凝りとは、筋肉が緊張して硬くなり血液循環が悪くなり、筋肉内に古い血液が滞る「うっ血」になった状態をいいます。正常な筋肉は、柔軟で弾力性に富み、その筋肉には動脈を通り絶えず酸素と栄養素が入ってきます。そして、筋肉の収縮運動により消費された酸素や栄養素は、二酸化炭素と水と老廃物となり静脈を通り筋肉外に排出されます。
タイマッサージの整体学しかし、何らかの原因で筋肉に凝りが生じ、その凝りの硬さにより血管が圧迫されると、酸素と栄養素は入ってこなくなり、二酸化炭素と水と老廃物も排出されなくなります。栄養素としてのグリコーゲンは、十分な酸素のもとで水と二酸化炭素に分解されますが、酸素不足の状態では発痛物質である乳酸が生じます。乳酸は筋肉を硬化させ神経を刺激し、その信号は脳に伝えられ痛みや凝り感として感じることができるわけです。
そして、凝っている状態が続き慢性的になると、今度は二酸化炭素の蓄積と神経への栄養不足により、脳に信号を伝えるべき神経が正常に働かなくなります。その結果、脳は筋肉から異常信号を受け取ることができなくなり、凝っていても凝りを知覚できなくなるのです。

様々な病気が発生する前には、その病気に対応した所にまず凝りが生じ、体はここがおかしいという信号を出します。しかし、その凝りをほぐさないでいると、神経の働きは鈍くなり、脳は信号を感じることができず、病気の発生に気づくことができなくなります。病気を予防するためには、凝りを感じた時にその凝りをほぐし、早めに対応することが必要となるのです。タイマッサージの手技の内、指圧・マッサージ・ストレッチなどで凝りをほぐすことは、筋肉内に十分な酸素と栄養素を供給し、老廃物である乳酸や二酸化炭素の排出を促し、筋肉の硬化を防ぎ、柔軟な筋肉を取り戻す効果があります。また、働きの鈍っていた神経を正常にもどす効果もあります。そして、背骨を支えている脊柱起立筋をほぐすことは、その筋肉に対応する各臓器の機能を正常にもどし、病気を予防する働きもあるのです。

凝りの原因

    1. 不良姿勢:猫背、横座り、あぐらなどの不良姿勢が長時間続くと、その姿勢を維持するための特定な筋肉が疲労を起こし、凝りの原因となる。
    2. ストレス:脳がストレスを感じると、脳神経である副神経が興奮し、副神経が支配する僧帽筋と胸鎖乳突筋が緊張し、その状態が続くと首や肩の筋肉が凝る原因となる。また、交感神経も優位になるため、体は戦闘状態となり、様々な場所で筋肉の緊張状態が起こり、凝りの原因となる。
    3. 噛み合わせ:噛み合わせに異常があると、その影響は顎関節の歪みを生じさせ、その状態が長く続くと顎関節炎を起こし、片側だけで噛むことが多くなり、顔、首、肩の筋肉が凝る原因となる。

筋肉の使い過ぎ:ウエイトトレーニングや他のスポーツなどで、特定の筋肉を長時間使いすぎると、筋肉中の老廃物が滞り、凝りの原因となる。

  • 筋肉の使わなさ過ぎ:筋肉は適度に使うことによって、その柔軟性が保たれているが、使わない時間が長くなると萎縮を起こし、凝りの原因となる。
  • 冷え:寒さは、体温を外に逃がさないようにするために、毛穴を閉め、立毛筋や体表の筋肉を収縮させ、凝りの原因となる。
  • 打撲・ケガ・外傷:打撲などにより筋肉に外からの衝撃が加わると、内臓などの大事な器官を守るために、筋肉は硬直し、その状態が長く続くと、凝りの原因となる。

 

タイマッサージの整体学

 

  • 内蔵に異常があると、首、肩、背中、腰など、体の特定な部位に反射として凝りが生じる。また、逆にこの凝りをほぐすことで、その原因となる内蔵の働きを改善させることも確かめられている。これを体表内臓反射、又は、体壁内臓反射という。
  • 飲酒は、首、肩、食道の裏、膵臓の裏、胃の裏、肝臓の裏、大腸・小腸の裏、ふくらはぎの筋肉を硬くする。
  • 喫煙は、首、肩、心臓の裏、肺・気管支の裏、胸の前側、胃の裏の筋肉を硬くする。
  • 長期間の薬の服用は、胃の裏、肝臓の裏、大腸・小腸の裏の筋肉を硬くする。

 

歪みの見方と問診の仕方

タイでは、施術をする場合、問診もなしにいきなり施術に入る場合が多くあります。しかし、実際に施術をするに当たって、しっかりとした問診をし、相手の体のどの部分がどの程度歪んでいるのかを知っておくことは、施術に伴う危険を防止するだけでなく、タイマッサージの効果を自分で確認し、相手にもその効果を伝えることで、タイマッサージの効果をお互いに認識することができます。

歪みの見方と問診の仕方

1.脊椎の歪みを見る(頸椎・胸椎・腰椎・仙椎の歪みと肩の高さと硬さを診る)
  1. 正座をしてもらい、左手を額に当て、右手の母指と示指で頸椎の横突起を触診し、頸椎に左右のズレがないかを確認する。その後、首を前に傾けてもらい、示指と中指で頸椎の棘突起を挟むように触診し、頸椎に左右のズレと前後のズレがないかを確認する。
  2. 首を真っ直ぐにもどし、左右の肩の高さを視診し、両肩を揉み、筋肉の硬さを左右の違いを確認する。その後、背中を丸めてもらい、示指と中指で胸椎・腰椎・仙椎の棘突起を挟むように触診し、胸椎・腰椎・仙椎に左右のズレと前後のズレがないかを確認する。
2.うつ伏せになってもらい脚長差を見る。
相手にうつ伏せになってもらい、足首を持ち、そっとかかとを合わせ、かかとの位置で足の長さの違いを確認する。
3.血圧の測定(血圧計を使い、血圧を測定する)
  • 正常:収縮期血圧で130mmHg未満、拡張期血圧で85mmHg未満
  • 高血圧:収縮期血圧が140mmHg以上、又は拡張期血圧が90mmHg以上
  • 低血圧:収縮期血が80mmHg以下
4.腹診
初診の時は必ず、指先で腹部全体を圧し、凝りや硬結の有無を探り、各内臓に異常がないかを確
認する。
5.施術後、1と2のチェックを再度行い、歪みと脚長差がどの程度改善したかを確認する。

ここで紹介した歪みの見方は、初心者には難しい場合が多く、正確に歪みを把握するには最低でも1年以上の経験が必要です。実際の歪みは、数ミリから1ミリ程度のものもあり、正確な位置の把握と確認するための繊細な指先のトレーニングが必要となるので、必ず熟練経験者の直接指導のもと、このテクニックをマスターされることをお勧めします。

(以上BAB出版「タイマッサージバイブル」、日本タイマッサージ協会出版「タイマッサージ入門」より抜粋)


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